大判例

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東京地方裁判所 平成4年(ワ)8898号 判決

原告

エンタプライズコンマ株式会社

右代表者代表取締役

赤松乾六

原告

赤松乾六

被告

株式会社サニクリーン本部

右代表者代表取締役

レスリー・ケイ・ヤマダ

被告

デイベンロイ リネンサプライ株式会社

右代表者代表取締役

レスリー・ケイ・ヤマダ

右両名訴訟代理人弁護士

三山裕三

被告

株式会社第一コーポレーション

右代表者代表取締役

三宅健夫

右訴訟代理人弁護士

南惟孝

牛久保秀樹

安川幸雄

被告

日拓エンタープライズ株式会社

右代表者代表取締役

西村光子

右訴訟代理人弁護士

山岸憲司

上野秀雄

今村哲

被告

アロハ・プラザ・プロパティーズ・リミテッド・パートナーシップ

右代表者社長

ウィリアム・ケイ・エイチ・マウ

右訴訟代理人弁護士

三山裕三

主文

一  原告らの被告アロハ・プラザ・プロパティーズ・リミテッド・パートナーシップに対する訴えを却下する。

二  原告らの被告株式会社サニクリーン本部、被告デイベンロイ リネンサプライ株式会社、被告株式会社第一コーポレーション及び被告日拓エンタープライズ株式会社に対する各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告らに対し、連帯して金一億円及びこれに対する平成四年八月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告アロハ・プラザ・プロパティーズ・リミテッド・パートナーシップ(以下「被告アロハ・プラザ」という。)の本案前の答弁

主文第一、三項と同旨

2  被告らの本案の答弁

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 主文第三項と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告株式会社サニクリーン本部及び被告デイベンロイ リネンサプライ株式会社(以下両者を併せて「被告サニクリーンら」という。)並びに右両者の会長であるデビット・ミノル・ヤマダ(以下「ヤマダ」という。)は、昭和五六年一〇月一五日、アメリカ合衆国ハワイ州に主たる事務所ないし営業所を有するパートナーシップである被告アロハ・プラザから、同被告所有の別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の日本法人に対する売却の委託を受けた。右委託は、被告サニクリーンら及びヤマダに対し、被告アロハ・プラザの日本における代表としての地位を与えるもの(商法四七九条参照)であり、本件土地を日本法人に売却するについて、排他的な交渉及び契約締結の権限を授与するものであった。

2  被告サニクリーンら及びヤマダは、昭和五七年五月二二日、被告アロハ・プラザの右委託に基づき、本件土地を日本法人に売却するについて、原告赤松乾六(以下「原告赤松」という。)及び原告エンタプライズコンマ株式会社を、買主の選定、交渉、契約締結に関する排他的権限を有する唯一の代理人として選任した。

3  右の際、被告アロハ・プラザは、被告サニクリーンら及びヤマダを通じて、原告らに対し、本件土地売買の代理手数料として、被告アロハ・プラザと買主との間で原告らの活動により売買契約が締結されることを条件として、売買代金の三パーセントにあたる金員を支払うことを約束し、また売買契約締結の際、買主から原告らに対し、売買代金の三パーセントの代理手数料を支払うようにさせることが約束された。

4  また、被告サニクリーンら及びヤマダと原告らとの間で、それぞれ売主被告アロハ・プラザ及び買主から原告らに支払われる各三パーセントの手数料のうち、その半分、すなわち1.5パーセントずつを、原告らから、被告サニクリーンら及びヤマダに交付することが取り決められ、このことは被告アロハ・プラザには厳秘扱いとすることが約束された。

5  昭和六一年一二月下旬ころ、原告らの販売活動の成果により、被告株式会社第一コーポレーション(当時の商号は住宅流通株式会社であった。以下「被告第一」という。)が、被告アロハ・プラザから本件土地を買い受けることになり、昭和六二年一月ころ、右両当事者間で、売買代金を六六〇〇万ドル(当時の円ドル換算レートを一ドルあたり一五五円として計算すると金一〇二億三〇〇〇万円)とする売買契約(以下「本件売買契約」という。)が締結された。

6  本件土地を日本法人に売却するにあたっては、必ず原告らを代理人として契約を締結しなければならないものとされていたにもかかわらず、現実に契約締結の段階になって、被告らは、原告らに対する代理手数料の支払を免れるため、共謀の上、原告らをことさらに排除して、被告アロハ・プラザと被告第一との間で直接本件売買契約を締結する形をとった(被告日拓エンタープライズ株式会社(以下「被告日拓」という。)は、本件土地の買主と称して原告らに接近し、最終的には、仲介手数料を得ることを目的として本件の取引に関与した。)。このため、被告らは、原告らが右売買にはまったく関係を有しなかったものとして処理し、被告アロハ・プラザ及び被告第一は、原告らの手数料請求を拒否した。

7  被告らの前記6の行為は、原告らに対する共同不法行為を構成するものであり、これにより、原告らは、本件土地の売買代金金一〇二億三〇〇〇万円の三パーセント(売主である被告アロハ・プラザ及び買主である被告第一からの各三パーセント合計六パーセントの手数料のうち、被告サニクリーンら及びヤマダに対する手数料の戻し分各1.5パーセントずつ合計三パーセントを控除した残り)に当たる金三億〇六九〇万円の売買代理手数料相当金額の損害を被った。

8  また、本件売買契約は、前記の経緯で被告アロハ・プラザから委託を受けた原告らの販売活動の結果成立したものであるから、原告らは、被告ら各自に対し、商法五一二条に基づき、右手数料を請求する権利を有する。

よって、原告らは、被告ら各自に対し、共同不法行為又は商法五一二条に基づき、金三億〇六九〇万円の内金一億円及びこれに対する本件訴状が各被告に送達された日の後の日である平成四年八月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告アロハ・プラザの本案前の主張

1  最高裁判所昭和五六年一〇月一六日判決は、被告が外国に本店を有する外国法人である場合は日本の裁判管轄を認めないのが原則であるとしている。被告アロハ・プラザは、アメリカ合衆国ハワイ州に主たる営業所を有するリミテッド・パートナーシップであり、いわば外国に本店を有する外国法人である。したがって、右被告に対しては、原則として日本の裁判管轄を認めるべきではない。

2  右最高裁判決は、右原則の例外として、当事者の公平、裁判の適正、迅速に資する場合は、条理により、日本の裁判管轄が及ぶことを認める。しかし、本件においては、以下に述べるように、右例外的事情にあたるような当事者の公平、裁判の適正、迅速に資する事情はまったく見当たらない。

(一) 被告アロハ・プラザは、日本においていかなる財産も有さず、営業所あるいは事務所を有さず、またいかなる業務も行っていない。右被告を構成するパートナーもすべてハワイ州に主たる営業所を有する同州の法人であり、日本でいかなる業務も行っていない。右被告の代表者であるウィリアム・ケイ・エイチ・マウ(以下「マウ」という。)も同州に住所を有する米国人に過ぎない。

(二) 本件土地の売却は、その交渉から締結、実行に至るまで、すべての行為がハワイ州ホノルル市において行われており、右売却の交渉は英語で行われ、かつ、売買契約等の関連文書も英文で作成された。また、本件売買契約の締結、本件土地の売却実行の前提条件である許認可の取得、区画規制の充足及び使用目的の適法性(開発計画の許認可を含む。)の確認並びに所有権の登録等本件土地の売却に関わるすべての事項は、ハワイ州法の規制の下に行われたものである。しかも、被告アロハ・プラザは、原告らからはもちろんのこと、被告サニクリーンら及びヤマダのいずれからも、被告第一を本件土地の買主として紹介されたことはない。要するに、原告らの被告アロハ・プラザに対する本件訴えは、本件売買契約に関するすべての行為がハワイ州において、かつハワイ州法に従い行われたという事実関係のもとで、その事実に関する法律上の紛争をハワイ州の会社に対し仕掛けているものにほかならない。

(三) 本件土地の売却はマウが単独で取り扱ったものであり、他に右売却に関する経過を十分に知る者はいない。そのため、被告アロハ・プラザが本件の訴えに対し十分な防御を行うためには、マウが自ら防御活動を行わざるを得ないが、マウは日本語を解しない上、既に満七九歳の高齢で、しかも、現在、高血圧、脂肪過剰血症、痛風、腎炎、脳卒中を患い、長時間の渡航に耐えられず、日本での訴訟活動は極めて困難な状況にある。たとえ日本の弁護士を訴訟代理人に立てても弁護士との連絡は容易でなく、訴訟活動に支障を来すとの危ぐもある。このように、被告アロハ・プラザが日本での応訴を強いられることとなれば、訴訟遂行上、著しい不便、不利益を被ることとなる。

(四) 他方、原告らは、本件以外にもクィーン・カピオラニ・ホテルやパシフィック・ビーチ・ホテルの購入、パシフィック・ランドリーやヤング・ランドリーの土地の購入など、ハワイの多くのホテルや土地の売買に関与しており、原告赤松は、その度にハワイを訪れているのであって、原告らはハワイの不動産ビジネスに精通している。また、原告赤松は、ハワイ州においてビジネスを行う一環として、その長男赤松潤一とともにホノルル市に不動産への投資、調査及び売買を主たる目的とするハワイ州法人「エーワン・インク」を設立、保有し、その副社長の地位にある(社長は長男潤一である。)。したがって、原告らとハワイ州との法的関連性は極めて強い。

(五) 原告赤松は、ハワイ州で多くのビジネスを行っているのみならず、自ら英文の書証を翻訳し裁判所に提出していることからも明らかなとおり、英語に精通しており、また弟に国際業務専門の弁護士を持ち、容易にその協力を得ることができる。したがって、原告らにとってハワイでの訴訟による不便は少ない。

(六) このように、日本とまったく関連を有しない紛争の解決のために、日本とまったく関連を有しない被告アロハ・プラザが原告らの一方的な便宜のために日本での裁判に応じ、それによる多大な不便、不利益を甘受しなければならないとすれば、著しく当事者間の公平を欠き、極めて不合理である。しかも、証拠収集の便宜、ハワイ州の法的制度、法的規制、習慣、その他諸事情の正確な把握及びそれらに基づく適正、迅速な裁判の実現という点からも明らかに不合理である。本件の訴えの場合、むしろ、法人等の普通裁判籍がその営業所や業務担当者の住所等を基準に決定される民事訴訟法四条の趣旨が妥当し、ハワイ州の裁判所において解決されるべきであって、日本の裁判管轄を肯定すべきでない。

3  以上によれば、原告らの被告アロハ・プラザに対する訴えにつき、日本の裁判所は管轄権を有しないというべきであり、右訴えは不適法であるから、訴え却下の判決を求める。

三  被告アロハ・プラザの裁判管轄に関する原告らの主張

1  被告アロハ・プラザの引用する最高裁判決は、外国に本店を有する外国法人には、原則として日本の裁判籍は認められないのを原則とするが、例外的に当事者間の公平、裁判の適正、迅速の見地から条理に従って裁判権の有無を決定すべき場合があることを認め、日本の民事訴訟法の規定する裁判籍のいずれかが日本国内にあるときは、日本の裁判権を認めるのが条理にかなうと判示している。これは、同法の定める裁判籍のいずれかの存在が認められる場合は、原則として日本の裁判権を肯定するという意味であると考えられる。

2  これを本件についてみるに、被告アロハ・プラザは、他の被告らと共謀の上、、本件土地取引が成立する段階になって原告らの関与を排除したものであり、その排除行為の大半は日本国内(その大部分が東京都)で行われている。

すなわち、昭和六一年九月の時点において、全日本空輸株式会社及び日本生命相互会社が本件土地の購入に関心を示していたところ、同年一〇月になって、右両社は、本件土地の利用に関心がないことを示唆するに至ったが、これと前後して、右両者の関係者が被告アロハ・プラザないしマウの代理人であるホノルルのコバヤシ・ワタナベ・スギタ・アンド・カワシマ法律事務所と連絡をとっていた。そして、これら一連の動きに呼応して、マウは、同年一〇月中旬に日本を訪れて、本件土地の売却に関係する会社の幹部や担当者に会見し、買主を被告第一(当時の住宅流通株式会社)とし、同社が本件土地を購入するについて、これに関係する各社が資金提供や将来のプロジェクト推進に協力することの一応の合意を取り付けた。その際、本件土地の売買価格を七五〇〇万ドル以下に引き下げるとともに、少しでも費用節約を図ることを企図して、原告らに対する売買代理手数料を免れるために、原告らを本件土地の取引から排除することとし、今後は関係者が協力して原告らの関与を拒絶する方向で行動することが確認された。原告赤松は、同年一〇月一九日に帝国ホテルにおいてマウと会談しているが、その際同席して通訳を担当した被告サニクリーンらの代表取締役であるレスリー・ケイ・ヤマダは、マウやヤマダと共謀の上、原告赤松の肝心な質問を故意に通訳しないことにより、原告らとマウとの間の意思の疎通の機会を断ち、原告らの本件土地取引への関与からの排除を謀ったのである。以上の事実関係によれば、被告アロハ・プラザについて、民事訴訟法一五条の不法行為地の裁判籍が日本国内に認められる。

また、不法行為の準拠法の前提となる「原因タル事実ノ発生シタル地」(法例一一条一項)とは、違法行為の重要部分が行われた場所を指し、それは本件の事実関係からすれば日本国内であるから、本件不法行為の準拠法は日本法であると解されるところ、不法行為に基づく損害賠償債務は持参債務であり、その履行地は、民法四八四条により原告らの住所地である東京都となるから、被告アロハ・プラザについて、民事訴訟法五条の義務履行地の裁判籍が日本国内に認められることになる。

さらに、原告らに対する被告らの前記不法行為は共同不法行為にあたるので、被告らの負担する債務は不真正連帯債務の関係に立つ。したがって、原告らの被告らに対する本件各請求は、同一の事実上及び法律上の原因に基づくものといえるから、主観的併合の要件を充足しており、被告アロハ・プラザについて、民訴訴訟法二一条の併合請求の裁判籍を日本国内に認めて差し支えないと考えられる。

3  このように、本件では、一応被告アロハ・プラザについて、日本国内の裁判籍が認められる事案と考えられるので、日本の裁判権を否定することが合理的と考えられる特段の事情(日本の裁判権を認めることが、当該訴訟の具体的事実関係に照らして、当事者間の公平、裁判の適正、迅速を期するという民事訴訟の基本理念に反する結果となるような事情)を右被告において主張立証しない限り、日本の裁判権を認めるべきであるといえる。

しかしながら、本件に関し被告アロハ・プラザが主張する事情は、以下のとおり、いずれも日本の裁判権を否定すべき特段の事情たり得ない。

(一) 被告アロハ・プラザは、本件売買契約の締結等、本件土地の売却に関する行為がハワイ州において行われている旨主張するが、本件において不法行為を構成する行為は、本件売買契約締結行為自体ではなく、右売買契約に原告らを関与させないようにする行為(排除行為、すなわち、排除の謀議及び原告らを本件売買に関与させるという作為義務があるにもかかわらず、あえてこれを回避する不作為)なのであり、これらの行為は、前記のとおり、その重要な行為を含む大半の行為が日本国内で行われている。このように、不法行為を構成する重要な行為が日本国内で行われた場合、日本の裁判所に裁判権を認めるのが判例のすう勢である。

(二) また、被告アロハ・プラザは、その代表者であるマウが高齢かつ病弱であり、十分な訴訟活動ができないおそれがある旨主張するが、本件土地の売却については、マウだけでなく、マウの子息であるレイトン・マウもその大半の部分に関与していたので、同人を通じて訴訟活動は十分可能と考えられる。

(三) さらに、被告アロハ・プラザは、原告側の事情として、原告らがハワイの多くのホテルや土地の売買に関与しており、原告赤松は、その度にハワイを訪れていること、また、原告赤松がハワイ州においてビジネスを行う一環として、ホノルル市にエーワン・インクを設立、保有していること等の事実を挙げて、原告らとハワイ州との法的関連性が極めて強い旨主張している。

しかしながら、原告らは、本件土地以外にはハワイ州においていかなる土地の売買にも関与しておらず、原告赤松がハワイを訪れたのは、すべて本件土地についての日本国内での商談活動をマウ及びヤマダに報告するためである。また、エーワン・インクは、被告アロハ・プラザから原告らに支払われる本件土地の売買手数料のうち、その半額をヤマダがマウに極秘で受け取るため、ヤマダが原告赤松に指示して設立させた法人であり、原告らがハワイ州でビジネスを行う目的で設立されたものではない。

(四) その他、被告アロハ・プラザは、証拠収集の便宜や準拠法がハワイ州法であることを挙げるが、前述のように不法行為を構成する行為の大半が日本国内で行われており、かつこれらに関与した関係者はそのほとんどが日本人で日本国内に在住している事実に鑑みれば、証拠収集の便宜という見地からは、むしろ日本の裁判所こそがより適切な裁判所といえる。

4  これらの諸事情を勘案すれば、本件では、被告アロハ・プラザについて、日本の裁判権を認めることが至当というべきである。

四  被告アロハ・プラザの反論(三2に対し)

1  不法行為地の裁判籍(民事訴訟法一五条)の不存在

不法行為地のように管轄原因事実が本案の請求原因事実と符合する場合、たとえ管轄の問題であっても、不法行為を構成する具体的行為が日本で行われたことにつき原告に主張責任があることは当然であるが、被告に対し不当な地での応訴を強いないようにするとの管轄の趣旨、とりわけ本件のような渉外事件では被告の負担が著しく大きいことに鑑みれば、本案前の問題だからといって主張さえあればよいというものではなく、少なくとも一応の証明が必要である。

原告らは、被告らの不法行為を構成する行為は、排除行為、すなわち、排除の謀議及び原告らを本件売買に関与させるという作為義務があるにもかかわらず、あえてこれを回避する不作為であり、これらの行為は、その重要な行為を含む大半の行為が日本国内で行われた旨主張している。

しかし、まず、排除の謀議とは、共同不法行為における共謀の主張と考えられるが、このような事実は、そもそも不法行為地を定める基準とはならない。また、原告らを本件売買に関与させるという作為義務の主張は、合理性及び明確性を欠き、主張自体失当というべきであり、かつ、その立証もない。さらに、原告らが排除行為として主張する事実は、不法行為の構成要素となる余地のない単なる背景事情に過ぎず、不法行為の実行行為が日本で行われたことを示す事実は何も含まれていない。また、そもそも不作為の不法行為につき不法行為地を特定することは一般には不可能であるところ、原告らは、右不法行為地をどのように特定するかにつき、まったく主張していない。このように、本件では、不法行為を構成する具体的行為が日本で行われたことにつき、必要な主張、立証はなく、被告アロハ・プラザにつき、民事訴訟法一五条の裁判籍は日本国内に存在しない。

2  義務履行地の裁判籍(民事訴訟法五条)の不存在

義務履行地が民法四八四条によって日本にあるというためには、前提として準拠法が日本法であることが明らかにされなければならないが、準拠法を決める基準となる「原因タル事実ノ発生シタル地」(法例一一条一項)、すなわち、違法行為の重要部分が行われた場所がどこであるかは、基本的に請求原因事実と重なり合うため、それについて、不法行為地の裁判籍と同様、原告らが主張及び立証責任を負うことは明らかである。

しかしながら、前記のとおり、不法行為を構成する重要な行為が日本で行われたという具体的主張がされているとはいえないので、準拠法は日本法ではないと考えざるを得ない。むしろ、本件土地売却のための交渉、契約締結及び実行のすべての行為がハワイ州において行われたという事実の下では、違法行為の重要部分がハワイ州で行われたと考えるべきである。よって、原告らは、ハワイ州法上、共同不法行為の賠償義務履行地が日本にあることを明らかにする必要があるが、その主張、立証はない。

仮に日本が共同不法行為の賠償義務の履行地だとしても、それのみを根拠に本件のような渉外事件につき日本の裁判管轄を認めるべきではない。すなわち、そもそも民事訴訟法五条の趣旨は、債権関係の当事者にとって、その履行地で出訴し、これに応訴することは、いずれの当事者にとっても便宜であり、不当に不利益にはならないであろうという点にあるが、本件のような渉外事件において、不法行為を行ったという主張のみで原因の住所地で訴えを起こすことができるとしたのでは、被告の不便は極めて大きく、裁量移送による調整の余地もないから、あまりにも原告の便宜に偏り、当事者間の公平に反する結果となる。

よって、被告アロハ・プラザにつき、民事訴訟法五条の裁判籍も日本国内に存在しない。

3  併合請求の裁判籍(民事訴訟法二一条)の不存在等

共同不法行為につき仮に主観的併合が認められるとしても、それだけでは容易に国際裁判管轄を認める根拠にはならない。渉外事件では関連事件に管轄を認めなくても裁判所の訴訟経済には反しないし、自らの意思によって訴訟を行う原告と違って、その意に反して応訴を強いられる被告につき、私法制度、裁判制度及び言語の違い並びに場所的隔たりが大きいことによる訴訟経済活動の困難性が重視されなければならないことは当然であり、その不利益の程度は国内事件の比ではなく、併合請求の裁判籍の規定が国際裁判管轄についても国内事件と同様に適用されるのでは、原告の利便に偏し、公平を失する。

そもそも、原告らの主張では、侵害された法律上の利益の内容及び不法行為を構成する具体的行為の内容は明らかではなく、右主張はそれ自体失当であり、また、主張事実につき一応の証明も行われておらず、主観的併合の前提すら欠けているというべきである。したがって、被告アロハ・プラザにつき、民事訴訟法二一条の裁判籍も日本国内に存在しない。

また、これまで述べたところからすれば、被告アロハ・プラザについては、わが国民事訴訟法の規定するその他いずれの裁判籍も日本国内には存在しないというべきである。

五  請求原因に対する認否

1  被告サニクリーンら

(一) 請求原因1の事実のうち、ヤマダが被告サニクリーンらの会長であることは認め、その余は否認又は不知。

(二) 請求原因2ないし5の各事実は否認又は不知。

(三) 請求原因6の事実は否認又は争う。

(四) 請求原因7及び8の各事実は争う。

2  被告第一

(一) 請求原因1の事実のうち、本件土地を被告アロハ・プラザが所有していたことは認め、その余は不知。

(二) 請求原因2ないし4の各事実は不知。

(三) 請求原因5の事実のうち、昭和六二年一月ころ、被告第一が本件土地を被告アロハ・プラザから代金六六〇〇万ドルで買い受けたことは認め、その余は否認する。

(四) 請求原因6の事実のうち、被告第一が原告らの請求を拒否したことは認め、その余は否認又は争う。

(五) 請求原因7及び8の各事実は争う。

3  被告日拓

(一) 請求原因1ないし4の各事実は不知。

(二) 請求原因5及び6の各事実は否認又は不知。

(三) 請求原因7及び8の各事実は否認又は争う。

4  被告アロハ・プラザ

(一) 請求原因1の事実のうち、被告アロハ・プラザがハワイ州に主たる事務所ないし営業所を有するパートナーシップであること、同被告が昭和五六年一〇月一五日、ヤマダに対し、本件土地の日本法人又は日本人(法人に限られず自然人でもよかった。)への売却のための買主方の探索を依頼したことは認め、その余は不知。

(二) 請求原因2の事実のうち、ヤマダが本件土地を日本法人又は日本人に売却するについて、原告らを本件土地の買主方の探索につき代理人として選任したことは認め、その余は不知。

(三) 請求原因3の事実は否認又は不知。

(四) 請求原因4の事実は不知。

(五) 請求原因5の事実のうち、被告第一が被告アロハ・プラザから本件土地を買い受けることになったこと、被告第一及び被告アロハ・プラザ間で本件土地の売買代金を六六〇〇万ドルとする本件売買契約が締結されたことは認め、その余は否認又は不知。

(六) 請求原因6ないし8の各事実は否認又は不知ないし争う。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  本件請求は、被告アロハ・プラザがアメリカ合衆国ハワイ州に所有する本件土地の日本法人への売却につき、右被告から委託を受けたヤマダらにより、原告らが排他的権限を有する代理人として選任され、原告らの活動の結果、本件土地が売却されるに至ったが、被告らは、売買代理手数料の支払を免れるため、共謀の上で原告らを排除したとして、原告らが被告らに対し右手数料あるいは不法行為による損害賠償の支払を求めるものである。

そして、被告アロハ・プラザは、本案前の主張として、本件請求のうち、右被告に対する訴えについては日本国裁判所は管轄権を有しない旨主張するので、まず、この点について判断する。

二  乙第二号証、第三号証の一、二及び第四号証によれば、被告アロハ・プラザがアメリカ合衆国ハワイ州に主たる営業所を有するリミテッドパートナーシップであることが認められるところ、本件のような渉外的要素を有する民事訴訟について、わが国の裁判所が管轄権を有するかどうかについては、これを直接規定した法規や条約はなく、一般に承認された国際法上の原則もいまだ確立していないので、当事者間の公平、裁判の適正、迅速を期するという理念により、条理に従って決定するのが相当である。そして、わが国民事訴訟法の国内の土地管轄に関する規定は国際裁判管轄を定めたものではないが、民事事件における管轄の適正な配分を図り、当事者間の公平や裁判の適正、迅速を期することを理念として定められたものであるから、同法の規定する裁判籍のいずれかがわが国内にあるときは、裁判管轄を肯定することによりかえって条理に反する結果を生ずることとなるような特段の事情のない限り、被告をわが国の裁判管轄に服させるのが右条理にかなうと考えられる。

三  右の観点から、原告らの被告アロハ・プラザに対する訴えにつき、わが国の裁判所が裁判管轄を有するか否かを検討する。

1  不法行為地の裁判籍(民事訴訟法一五条)の有無

原告らは、本件取引から原告らを排除する行為(排除の謀議及び原告らを本件売買に関与させるという作為義務があるにもかかわらず、あえてこれを回避する不作為)の大半は日本国内で行われているから、被告アロハ・プラザについて、民事訴訟法一五条の不法行為地の裁判籍が日本国内に認められる旨主張する。

不法行為地の裁判籍のように、管轄原因たる事実と請求原因事実とが符合する場合の国際裁判管轄の決定に際しては、原告の主張のみによってこれを肯定し、被告に実体審理について応訴の負担を強いるのは、その性質上相当ではなく、管轄原因事実について一応の証明が必要と解すべきであり、被告が日本国内において不法行為を行ったことにつき実体審理を必要ならしめる程度の心証を持つに至った場合には、右管轄原因事実の証明ありとして管轄を肯定して差し支えないものというべきである。

そこで、本件不法行為の前提となる原告らを本件売買に関与させる作為義務が被告らに存するか、すなわち、原告らが本件売買に関し排他的な権限を有するかについて検討する。

乙第一、第六号証及び原告赤松乾六本人兼原告エンタプライズコンマ株式会社代表者尋問の結果(以下「原告赤松本人尋問の結果」という。)によれば、被告アロハ・プラザの代表者マウは、昭和五六年春ころ、ヤマダに対し、本件土地の日本における買主を探すよう委託し、ヤマダは、そのころ、マウの右委託に基づき、原告赤松に対し、日本において、ヤマダに代わって本件土地の買主を探し売却のための交渉をするよう依頼したことが認められ、原告らが本件土地売却に関する権限をマウから直接与えられたことを認めるに足りる証拠はないから、原告らの右権限の内容は、マウからヤマダに与えられた権限の内容により決定されるものと考えられる。

ところで、原告らは、ヤマダがマウから排他的な交渉及び契約締結の権限を与えられていた旨主張し、マウからヤマダ宛に送付された本件土地売却のための交渉を委託する趣旨の手紙(甲第一、第一九号証の各一。委任状の性質を有すると解される。)中にrepre-sentativeという語があることが認められるが、甲第六九号証の一、二、丙第一一ないし第一三号証によれば、representativeという語は、代理人、代表者等と訳されることが認められるけれども、当然に排他的な権限を有する者を意味するとはいえないことが明らかである。そして、前記のとおり、本件土地売却に関する原告らの権限の内容は、マウからヤマダに与えられた権限の内容により決定される以上、ヤマダがマウから与えられた以上の権限を原告らに授与したと考えることは困難であり、結局、原告らが本件土地売却に関する排他的権限を有していたかについては疑問といわざるを得ない。乙第六号証によれば、ヤマダが本件土地の買主の探索及び売却の交渉を依頼したのは原告赤松のみであったことが認められるけれども、そのことをもって直ちに原告赤松に排他的権限が与えられたということはできず、他に原告赤松の排他的権限を認めるに足りる証拠は見当たらない。右によれば、原告らの主張する排他的権限を前提とする不法行為が成立するかについては疑問が存する。

さらに、原告らが被告らの排除行為として主張するところについて検討するに、原告らは、日本における被告アロハ・プラザの不法行為を構成する具体的行為として、被告アロハ・プラザの代表者マウが昭和六一年一〇月に来日して、関係各社と接触し、本件土地の買主を被告第一とすることの合意等を取り付けたが、その際、右各社との間で、原告らを本件取引から排除する方向で行動することを確認した、原告赤松は、同月一九日にマウと会談したが、同席して通訳を担当したレスリー・ケイ・ヤマダが、マウと共謀の上、原告赤松の質問を故意に通訳しなかったなどと主張する。しかし、右主張は具体性に欠けるばかりでなく、乙第一号証及び原告赤松本人尋問の結果によれば、マウが原告ら主張のころに来日し、原告赤松と面談したことは認められるものの、その余の原告ら主張事実については、原告赤松の供述以外に格別これを裏付ける証拠はなく、原告ら主張の排除行為を認めるには、これまた疑問がある。

加えて、甲第四号証の一及び原告赤松本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告赤松は、昭和五六年から昭和六一年まで五年以上にわたり、日本の大手の会社数社に対し本件土地の販売活動を行ったことが認められるが、他方、丙第三三号証によれば、原告赤松は、本件土地の売却に関して被告第一(住宅流通)の関係者に接触したことはなく、住宅流通の名前をマウあるいはヤマダに知らせたこともないことが認められるから、原告らの活動の結果により本件売買契約が成立したということもできない。

以上検討したところによれば、本件では、被告アロハ・プラザが日本国内において不法行為を行ったことにつき、管轄原因としての一応の証明すらされているということはできないから、被告アロハ・プラザにつき、不法行為地の裁判籍を日本国内に認めることはできない。

2  義務履行地の裁判籍(民事訴訟法五条)の有無

原告らは、不法行為の準拠法の前提となる「原因タル事実ノ発生シタル地」(法例一一条一項)は、本件の事実関係からすれば日本国内であり、本件不法行為の準拠法は日本法であると解されるところ、不法行為に基づく損害賠償債務の履行地は原告らの住所地である東京都となるから、被告アロハ・プラザについて、民事訴訟法五条の義務履行地の裁判籍が日本国内に認められる旨主張する。そして、弁論の全趣旨によれば、原告らが東京都内にその本店あるいは住所を有することが認められる。

しかしながら、わが民事訴訟法上、不法行為地には独立の裁判籍が認められているし、日本国内に住所を有する原告からの不法行為に基づく損害賠償請求の場合に、日本の法律によって義務履行地を定め、それを基準に常に日本の裁判所の管轄を認めるとすれば、被告においてそのことを予測することが不可能であって、当事者間の公平に反するおそれが大きいから、不法行為事件の国際裁判管轄を決定するに際し、民事訴訟法五条の義務履行地を基準とすることは、これを否定すべきものと解する。よって、原告らの右主張は失当である。

また、商法五一二条に基づく請求についての義務履行地につき検討すると、契約上の債務については、義務履行地が契約上明示され、あるいは契約内容から一義的に明確であるというような特段の事情のないかぎり、義務履行地としての国際裁判管轄を日本国内に認めることは、前記説示のように当事者間の公平を失することになり、条理にも反する結果となると考えられるところ、本件においては、右のような事情は認められない。

したがって、被告アロハ・プラザにつき、義務履行地の裁判籍を日本国内に認めることはできない。

3  併合請求の裁判籍(民事訴訟法二一条)の有無

原告らは、被告らの不法行為は共同不法行為にあたるので、原告らの被告らに対する本件各請求は、同一の事実上及び法律上の原因に基づくものといえるから、主観的併合の要件を充足しており、被告アロハ・プラザについて、民事訴訟法二一条の併合請求の裁判籍が日本国内に認められる旨主張する。

国際裁判管轄に関して、主観的併合を理由に併合請求の裁判籍を認めることは、自己と生活上の関連がなく、また自己に対する請求自体とも関連を有しない他国での応訴を強いられる被告の不利益に鑑み、原則として許されないと解すべきであるが、わが国裁判所の裁判管轄を認めることが当事者間の公平、裁判の適正、迅速を期するという理念に合致する特段の事情が存する場合には、わが国裁判所の裁判管轄を認めるのが条理にかなうというべきである。しかしながら、本件においては、前記説示のとおり、そもそも被告らに不法行為が成立するのか疑問であるし、わが国裁判所の裁判管轄を認めるべき特段の事情も認められない。

したがって、被告アロハ・プラザにつき、併合請求の裁判籍を日本国内に認めることはできない。

4  他に原告らの被告アロハ・プラザに対する訴えについてわが国に裁判管轄があることを認めさせるに足る事由はうかがえない。

5  以上によれば、原告らの被告アロハ・プラザに対する訴えについてわが国裁判所は裁判管轄を有しないというべきであり、右訴えは訴訟要件を欠く不適法なものであるから、これを却下すべきである。

四  続いて、被告アロハ・プラザ以外の被告ら(以下「被告ら四名」という。)に対する原告らの請求の当否について検討する。

1  請求原因1の事実のうち、ヤマダが被告サニクリーンらの会長であることは原告らと被告サニクリーンらの間において争いがなく、同1の事実のうち、本件土地を被告アロハ・プラザが所有していたこと、同5の事実のうち、昭和六二年一月ころ被告第一が本件土地を被告アロハ・プラザから代金六六〇〇万ドルで買い受けたこと、同6の事実のうち、被告第一が原告らの請求を拒否したことは原告らと被告第一の間において争いがない。

2  原告らは、被告ら四名に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求するが、前記説示したところに加え、本件全証拠によっても、原告らに本件土地売却に関する排他的権限があると認めることはできないし、原告らを本件土地の取引から排除すべく被告ら四名が何らかの活動をしたとも認められない。原告らの主張を条件成就妨害による手数料請求と解したとしても、被告ら四名が条件成就を妨げたと認めるに足る証拠はないから、原告らの右請求は理由がない。

3  原告らは、被告ら四名に対し、商法五一二条に基づき、本件土地の売買代理手数料を請求する。

しかしながら、商法五一二条は、商人がその営業の範囲内において他人のためにある行為をしたときは相当の報酬を請求し得る旨規定するところ、原告赤松が商人であることを認めるに足りる証拠はなく、また、本件全証拠によっても、原告らが被告ら四名の利益のために本件土地の販売活動を行ったこと、あるいは原告らの販売活動の結果本件売買契約が成立したことのいずれも認めることができず、原告らの右請求も理由がない。

五  以上の次第であるから、原告らの被告アロハ・プラザに対する訴えは訴訟要件を欠く不適法なものであるからこれを却下し、原告らの被告サニクリーンら、被告第一及び被告日拓に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官滿田忠彦 裁判官加藤美枝子 裁判官足立勉)

別紙物件目録

所在地 アメリカ合衆国ハワイ州ホノルル市カピオラニ通り及びアトキンソン通り交差地域

地積 四〇万平方フィート

用途地域 B―3

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